Tongariro Alpine Crossing
この日の予定は、北島で最も楽しみにしていたTongariro Alpine Crossingに長男と挑戦し、最終目的地のAucklandまで移動します。
Tongariro Alpine Crossingは、New Zealand北島のほぼ中央に位置するTongariro国立公園内にある、NZで屈指の人気を誇る登山道のひとつです。
首都Wellingtonと最大都市Aucklandのほぼ中間点にあります。
同国南島には、「世界一美しい散歩道」と称されるMilford Track、Southern Alpsの雄大な山岳風景と豊かな自然景観を楽しめるRouteburn track、NZ最高峰のAorakiを間近で望むHooker Valley Trackなど、世界中の登山家と自然愛好家、写真家を魅了してやまない魅力的な場所が数多くあります。
Tongariro Alpine Crossingは、激しい火山活動で形成された北島特有の荒々しい景観を楽しめる、NZ国内で最も素晴らしい日帰り登山と謳われ、高い人気を誇ります。

Tongariro国立公園は、NZ初の国立公園で世界遺産です。この山域にある火山は先住民Maori族の信仰対象であり、同族の文化との関りから文化と自然の複合遺産として世界遺産に登録されました。

登山道の全長は19.4km、累積標高差は900mを超え、一般的な登山者の所要時間は7~8時間もの本格的な登山です。登山道は概ねなだらかで、しっかり整備されていることから、登山初心者でも十分な体力がある方なら歩けます。道標が登山道の主要な場所に設置され、たくさんの登山者が引きも切らず歩いているので、道を見失う心配は少ないと思われます。
この登山道は片道の縦走路で、起点はMangatepopo Road EndとKetetahi駐車場です。どちらからでも歩けますが、MangatepopoからKetetahiへ向かう人が圧倒的に多いです。それぞれの標高は、Mangatepopo(1,120m)、Ketetahi(760m)と標高差があり、KetetahiからMangatepopoへ歩く場合は登りが増え、1時間ほど余分に時間を要するため、楽な方が好まれるからです。
見所は登山道の中央付近にあるので、縦走せずに途中で引き返しても良いかと思います。

縦走する場合は、自家用車等を終点まで回送しなければなりません。そこで、登山者の多くはshuttle busを利用します。終点のKetetahiに自家用車等を駐車し、shuttle busを片道利用して起点のMangatepopoに移動する方法。TaupoやTurangiなど主要な宿泊地から、早朝にMangatepopoまで送ってもらい、夕方にKetetahiへ迎えに来てもらう、往復利用の方法があります。事業者は複数あり事前の予約が必要です。帰りの迎えは数便用意されているので、登山者の予定と行程にあわせて登山をゆっくり楽しむことができます。
Mangatepopo Road End To Soda Springs
国道47号からMangatepopo Roadへ入ると未舗装路となります。道幅は広く平らで走りやすい道路ですが、路面が乾燥していると土埃がたくさん舞い上がり閉口します。終点のMangatepopo Road Endは標高1,120m、道路の両脇に60台くらい収容できそうな駐車場とVisitor Centre、お手洗いがあり、水場があります。登山道の注意点と天気予報などが表示されています。

登山口は濃霧に覆われ、真夏に訪れたのに、上着がないと寒いほどでした。
登山の行程が長いことを考慮して、早朝に到着しましたが、登山者がshuttle busで続々とやってきて、お手洗いを済ませると出発して行きます。
僕等も早々に準備して出発しました。

歩き始めは砂利に覆われた平たんな道で、よく踏み固められており歩きやすいです。湿地帯には板等が敷かれ、よく整備された遊歩道なので、Soda Springsまでは車いすでも行けるかもしれないと思いました。

登山口から約15分でWhakapapa村への分岐に差し掛かり、さらに5分ほど歩くと、Mangatepopo小屋の分岐に至ります。小屋は道から少し離れた沢の近くにあり、お手洗いもあります。
ちなみに、簡易的なお手洗いが約1時間から2時間おきに設置されています。でも、toilet paperは備え付けられていないので、利用する際は持参します。
僕等は家族全員の登山を検討したものの、5歳の長女には厳しいと判断し、Mangatepopo Hutまで一緒に歩き、妻と長女はそこから引き返すことに決めていました。ここで、妻と長女は引き返し、僕と長男は縦走し、妻が長女を連れて車を回送することで、効率的な計画を立てました。登山中は携帯電話が通じないので一抹の不安を感じていましたが、妻に災難が降りかかるとは予想だにしませんでした。

道は小さな沢に沿って進み、溶岩流の端に沿ってMangatepopo谷の奥へと入っていきます。溶岩の表面の植生を見ると、形成された年代が異なることがわかります。Soda Springsは登山道を左手に外れ5分程度のところにありますが、僕等はあまり興味がなく、先を急ぐので通過しました。
Soda Springs To South Crater
Soda Springsまではなだらかな登山道ですが、ここからSouth Craterまでは勾配がきつくなります。この区間は「悪魔の階段」と呼ばれ、海抜1,400mから1,600mまで高度を上げます。
ここまで来ると霧がだいぶ消え失せて、辿ってきた道を見ることが出来るようになりました。快晴で遠くまで見渡せる日には、はるか西方にTasman海に面してそそり立つ、ほぼ完璧な円錐形で富士山のような美しい成層火山のTaranaki山を眺めることが出来るそうです。

足場はそれほど悪くありませんが、溶岩などの噴出物が至るところに堆積しており、注意して歩みを進める必要があります。

Soda SpringsからMangatepopo Saddleにかけての少しきつい坂を登り終えると、目の前に広く平らな場所が出現します。Ngauruhoe山とTongariro山が左右にそびえるここがSouth Craterです。


South Craterから寄り道してNgauruhoe山とTongariro山の頂へ登る道がありますが、Ngauruhoe山の場合は往復3時間、Tongariro山の場合は往復1時間半ほど余分に時間を要します。先住民は両方の山とも神聖な山として崇め、他者が登山することを快く思わないため、登りたい気持ちを抑え下から眺めるだけで満足することが賢明だと思います。
Soda SpringsからSouth Craterまで、40分から1時間程度の道のりです。
South Crater To Red Crater
South Craterを通過すると、Ngauruhoe山とTongariro山を繋ぐ尾根に登る最後の急登が待っています。この短い急斜面を登り切った峠が登山道の最高地点(1,886m)。ここからがTongariro Alpine Crossingの核心部です。


稜線上はとても風が強く、上着がないと過ごせないほどでした。
稜線は広いものの、両側とも崖になっていて、特にRed Crater側は切れ落ちている断崖のため、強風時や視界不良時には注意が必要です。
稜線に立つとRed Craterの荒々しい火山地形が見渡せます。激しい火山活動が作り上げた、見たことのないような興味深い地形を見ることが出来ます。

峠を越えるとこれまで全く見えなった北東側の地形が視界に入ってきます。

Red Crater To Blue Lake
左手にはRed Craterから噴出した古い溶岩流がCentral Craterを横切って広がっており、右手にあるのがEmerald湖です。

Emerald湖とその奥にBlue湖があり、東側にはOturere渓谷、Rangipo砂漠、Kaimanawa山脈など雄大な景色を楽しむことができます。
Tongariro Northern Circuitの一部であるOtureree Hutへの道は、最も低い位置にある湖を通り過ぎてから分岐しています。

Red Craterから稜線を下り、Emerald湖へ向かいます。
火山岩が作り上げた無機質な荒涼とした世界に突如として現れる、あざやかな翠玉色に輝く神秘の湖へ早く行きたいと思いますが、下り道はとても足場が悪いため慎重に足を運ばなければなりません。
例えるなら、富士山の御殿場登山道の砂走のような感じです。この急斜面を登るのは骨が折れそうです。

急斜面を滑るように降りると、目の前に翠玉色に輝く湖が静かに水を湛えています。この湖は、周囲の岩から溶け出した鉱物が湖の色を翠玉色に染め、神秘的な雰囲気を漂わせています。
Emerald湖は大中小3つの湖があります。水色はそれぞれ異なりますが、どれも美しく訪れる者を魅了します。


Emerald湖のほとりに分岐があり、最後の見どころとなるBlue湖へ向かいます。
道は、Central Craterの東端に沿って続き、坂を少しだけ登るとBlue湖に至ります。この湖も先住民の聖地とされており、泳いだり湖畔で飲食することは好ましくないとされています。

Blue Lake To Ketetahi Shelter

続いて、North Craterの外輪山の側面を回って、谷間を下って行きます。

道中、一緒に歩いていた若い子たちと会話したところ、彼女たちは独逸から観光に来たとのこと。僕等のNZ滞在日数は12日間と伝えたところ、そんな短い日数ではNZを十分に楽しむことは出来ない。4週間でも短すぎて、2ヵ月間くらい滞在する予定だと話してくれました。2ヵ月間も休めるなんて、日本人の感覚では理解できません。今回、僕は子どもたちの夏季休暇にあわせ、振替休日などを組み合わせて、なんとか12日間も休めましたが、日本で働いていたらこんなに休みを取ることは難しいでしょう。欧米人の労働生産性の高い働き方と、ゆとりある暮らしが羨ましく思います。豪州で働いてみて、日本人の労働生産性の低さを実感しました。日本でも外国人移民をもって受け入れ、お互いの良い点を学び合い、旧弊をあらためより良い時間の使い方と生き方を実践できる社会になってほしいと思います。
ここから先はとても歩きやすく、目の前にはRotoaira湖があり、Rotoaira湖の向こうにはTaupo湖が遠望できます。Rotoaira湖は、Taupo湖の南にある面積13km²の小さな湖。同国で数少ない個人所有の湖だそうです。

Ketetahi Shelterの建物が見えてきます。Ketetahi Shelterで休憩し、昼食を取りました。小屋の周りはたくさんの登山者であふれていましたが、小屋内は空いていました。
Ketetahi Shelter To Ketetahi Car Park
Tussockの草原の中、長い緩やかな下り道が続き、その後低木林に入ります。終点までは、Blue湖までの岩と砂ばかりの火山性地形とは対照的な、緑豊かな茂みを歩きます。

ここから先は、草原地帯から低灌木帯、樹林帯と植生の変化を楽しみながら、駐車場を目指します。
道中、携帯電話はまったくつながらず、妻と長女が無事に駐車場へ辿り着いているか、心配しながらの登山でした。
妻が携帯電話圏外で何か問題に巻き込まれたら、自力で解決しなければなりません。幼い長女は何の役にも立たず、怪我などいつも新たな問題を引き起こすので心配していました。

ここから先はとても歩きやすく、目の前にはRotoaira湖があり、Rotoaira湖の向こうにはTaupo湖が遠望できます。
待ち合わせ場所に指定していた登山道終点の駐車場に、予定より少し遅れて到着すると、我らが車は見当たりません。
しばらく待っても迎えに来ないので、事故や故障など何か問題が生じて、来られなくなったのではないかと不安が募ります。
その一方、Ketetahi駐車場が満車のため進入できず、妻たちは国道46号Lake Rotoaira Rdの向こうにある大きな駐車場で待っているのかもしれないと思い、そこまで歩いて行くことに決めました。1km以上も距離があり、もう歩きたくないと心が折れそうです。
未舗装路は車が通ると土埃が盛大に舞うので辟易しますが、仕方なく道路脇を歩きます。すると、駐車場から出てきた車が僕らの目の前で止まり、ご婦人が乗って行けと声をかけてくれました。長距離の登山で疲労困憊だった僕らは、とても有難い申し出に喜びました。話を聞くと独逸から来て夫婦で観光を楽しんでいるとのこと。彼らの好意がとても嬉しかった僕は、片言の独逸語で自己紹介しお礼を述べました。
おかげで土埃まみれにならず、国道へ到着しました。すると、見慣れた銀色のLegacyが目に留まり、妻子が笑顔で出迎えてくれ、とて安心しました。
Ketetahi Car Park to Auckland

下山後、Taupo、Hamilton経由で最終目的地のAucklandへ向かいます。
実は、妻たちは大きな問題に直面していました。僕らと別れMangatepopo駐車場に戻ると、前輪助手席側のtireの空気が抜けているという張り紙を見つけ、驚いたそう。Tire交換などしたことがない妻は、どうしたら良いか分からず途方に暮れていました。その様子をたまたま見ていた、shuttle busの運転手が困っている妻を見るに見かねて、手を差し伸べてくれたそうです。車の荷台の大量の荷物を降ろして、非常用tireと工具を取り出し、Tire交換を手伝ってくれたそう。その方は恰幅の良い女性の運転手で、とても親切にしてくれたのだとか。まさに、捨てる神あれば拾う神ありです。Aussieに負けず劣らず、New Zealanderも親切で、New Zealandの印象がとても良くなりました。帰国後、なにかお礼をしなくちゃいけないと思いました。
とにかく無事に合流できて、車も走行でき一安心なのですが、今日はこれから最大都市まで長距離を走行せねばなりません。
非常用tireで長距離を走るのは不安があり、何より高速道路は無理です。でも、あいにく土曜日のため、修理工場などは全く営業しておらず、給油所では日本と違い修理してくれるようなところはありません。
車を借りたcar rental会社へ相談しようと、call centreへ電話したところ、応答したのは豪州の企業のcall centreと同様に印度人ぽい訛った英語話者で、聞き取りづらく閉口します。しかも、car rental会社は非常用tireのままAucklandの営業所まで走行して来いと言います。客の安全よりも利益を優先する会社の態度に怒り心頭で抗議しますが、相手は「修理したければ自費で修理し、保険会社に請求したら良い」との一点張りで埒が明かず、交渉をあきらめました。
取り急ぎ、大きな町があるTaupoまで日が暮れるまで到着しなければと焦りつつ、ゆっくり安全運転で向かいます。移動中にJAFのようなroadserviceを見つけ、Taupoの町で修理してくれるという業者を紹介してもらいました。指定された自動車工場へ到着すると誰もおらず、SMSで催促すると若者が駆け付け、修理してくれました。NZ$150以上の痛い出費でしたが、背に腹は代えられず、これで最終目的地まで安心して運転できます。
当初は明るい時間に最終目的地Aucklandに到着し、少し観光する予定でしたが、だいぶ遅れてしまったので、途中にあるNZ第4位の都市HamiltonでNZ最後の晩餐をすることに決めます。Hamiltonはこじんまりとした街で、少し寂しい感じでしたが、Asian料理を美味しくいただきました。

夜にAuckland空港近くの宿に無事に到着しました。
でも、ここでもまた問題が発生します。事前に予約して宿泊料も支払済みなのに、部屋が予約されていないと言われ驚きます。予約の証拠を見せ、この日は満室でなかったため部屋が確保でき、だいぶ待たされた挙句にようやく部屋に入ることができました。満室だったらどうなっていたことでしょう。問題が立て続けに起こったけど、経験値を上げることが出来ました。
宿泊地 Holiday Inn Auckland Airport
所在地 2 Ascot Road, Mangere, Auckland 2022, New Zealand