豪州大陸横断鉄道の旅 1日目

Indian Pacific Eastbound Day 1

いよいよ大陸横断鉄道の旅が始まります。
この日の予定は、Perth駅から近郊鉄道路線で、東Perth駅へ移動し、Indian Pacifiの乗車手続きを行い乗車します。
列車は10時に出発し、肥沃な西海岸から、Outbackと呼ばれる豪州大陸の内部に見渡す限り広がる赤土の広大な荒野へ向かいます。
最初の停車駅は、西Australia州のGold rush town、Kalgoorlie。世界最大の露天掘り金鉱山、Super Pitを訪問します。

目覚めると、昨夜までの雨は上がっていましたが、曇りがちでぱっとしない天気でした。朝食をいただき、8時過ぎには宿を出て、Perth駅へ歩いて向かいました。

Perth駅はPerth都市圏の主要駅であり、9つのplatformを備えた規模の大きい駅です。でも、Indian PacificはPerth駅から発着せず、Perth駅から3つ目の東隣にある東Perth駅から発着します。
車両全長が通常で774m、最小編成でも427mに及ぶ同列車は、巨大すぎて主要駅ですら容易に収まりません。終着駅の大きなSydney Central駅ですら、platformに収まらないため、2分割して入線するのです。
また、この列車の発着にはある程度の時間を要するため、列車の発着で混雑する主要駅で2つのplatformを占有し、機関車を取り回すのは時間調整がとても難しいものと想像できます。
そこで、他の列車へ影響を及ぼさない東Perth駅が発着駅になっているものと思います。

Perth駅からMidland Railway Lineを利用して東Perth駅へ移動します。
Midland Railway Lineは、Perthから北東へ延びる路線で、Indian Pacificも走行します。
この路線は、Perth駅近くでは300m~400m程度の近距離に駅があり、使い勝手が良さそうです。出発してわずか5分くらいで、東Perth駅に到着しました。

Indian Pacificの発車時刻は10時で、案内には1時間前に乗車手続きを完了するようにとあります。
僕らは余裕を持って1時間半前に到着しましたが、下車すると隣のplatformには既にIndian Pacificが停車していました。
Platformに入りきらない長大編成、銀色に輝く車両の中央部に誇らしげに輝くIndian Pacificと尾長犬鷲のemblemを見ると興奮します。

Indian Pacificの象徴となっているのは、豪州大陸に生息する豪州最大の猛禽類「尾長犬鷲」です。
翼開長が280cmにも及ぶ鷲が、翼を広げて飛翔する雄姿は、まさに長大編成のIndian Pacificに相応しいと思います。
ちなみに、尾長犬鷲は豪州大陸とTasmania、New Guineaに生息し、豪州連邦政府から絶滅危惧種に指定されています。

東Perth駅は乗降客が少ないようで、一般の乗客の姿は見かけず、Indian Pacificの乗客だけでした。
貨物の積み降ろし設備などがあるので、旅客より貨物の取扱いが主かもしれません。
駅舎の中には、古い路面電車の客車が静態保存され、壁面は蒸気機関車の外観で飾り付けられ、鉄道好きにはたまらない駅かもしれません。
Indian Pacificの受付は、駅舎正面の入り口付近に設けられていました。

駅前の広場には、古い蒸気機関車が静態保存されています。

到着したplatformから駅舎へ移動すると、Indian Pacificの搭乗手続きが行われていました。

乗車手続きは名前を告げるだけです。担当者はすぐに名前を探し出し、車両記号と寝台番号を書き入れた専用のcardが手渡され、受付は完了です。

個室に持ち込まない大きな手荷物等は、貨物室に預けることが出来ますが、途中で取り出すことが出来ません。

受付を済ませ車両に近づくと、あらためてその大きさに驚かされます。

Platformの中央には、飲み物と軽食が用意されており、乗客は乗車時刻を迎えるまで思い思いに過ごしています。

その脇でguitarを演奏しているのは、この列車の専属の音楽家です。
乗客のためにcountryやfolk songを演奏して、これから迎える旅の雰囲気を盛り上げています。なかなか憎い演出です。

妻子たちはhot chocolateを飲んで体を温め、僕は車両の両端を見たくて早歩きでplatformを歩いていました。
長大なplatformの末端までたどり着くと、機関車にようやく出会えました。
機関車は客車から切り離されて単独で停車していました。
写真をたくさん撮っていると、そろそろ乗車時刻になりました。

搭乗時刻が迫ってきました。笑顔の担当者が入り口で待っています。

指定された号車の出入口で、車両の担当者が笑顔で出迎えてくれました。

個室に案内され、車両と個室の設備の簡単な案内、食事の説明などを受けました。
部屋は2人が過ごすには十分な広さです。窓は広く、座席も大きく、天井がそこそこ高いので圧迫感はそれほどありません。

窓側

折りたたみ式のtableの上には、Indian Pacificのlogoが描かれた飲料水と、同列車や停車駅が紹介された各種資料が用意されていました。

荷物は座席の下と洗面所兼shower室上部の空間に置くことが出来ます。

通路側

洗面所兼shower室はとても狭いものの、必要最低限の設備が機能的にまとめられています。高品質のAmenity goodsもあり、hotelそのものです。

荷物を整理した後、展望車のOutback Explorer Loungeに移動しました。

個室に飽きたら、ここで飲み物を片手にゆったり過ごすことが出来ます。珈琲や紅茶、juiceなど何でも飲み放題です。
Loungeと食堂車ではWi-Fiがあり、internetに接続できます。ただし、衛星通信ではなく携帯電話の地上基地局から電波を拾うので、携帯の電波が圏外になると通信できなくなります。つまり、一定規模の街や都市では使えますが、内陸の荒野など大部分では使用できません。

定刻になると、軽い衝撃と共に列車がゆっくり動き始めました。
いよいよ東海岸へ向けて出発です。
列車の全長774m、総重量1400tonにもなる長大編成を走らせるのは容易でないらしく、一定の速度になるまで相応の時間を要します。

車窓から眺める景色がゆったり流れていきます。
長女は移り変わる景色を見て大はしゃぎ。

Perth中心部では人家と建造物がたくさんありますが、市街地を離れると人工物が疎らになります。近郊には木々が生い茂り、豊かな森が広がっています。

昼食の時間になりました。
食堂車のQueen Adelaide Restaurantへ移動します。

Queen Adelaide Restaurantの名前の由来は、英国王William 4世の配偶者であったAdelaide王妃にちなんで名付けられました。
英国が1836年に自由入植地として南Australiaを建設した際、関係者は新しい都市に国王の名前を付ける許可を求めましたが、国王William 4世は女王の名前を使うことを提案しました。そうした経緯で、南Australia州の州都はAdelaideになりました。
庶民的な国王夫妻は大衆から人気が高く、Adelaide王妃は恵まれない人々のために献身的で、収入の大部分を寄付したそうです。

Art Deco(アールデコ調)に装飾された食堂車は、飛行機による空の旅が本格的になる以前に、鉄道旅行が主流だった古き良き時代を偲んで作られた格調高い高級なrestaurantです。

専属の料理人が、地元で採れた新鮮な食材をふんだんに使った料理を提供しています。
豪州を代表する淡水魚のBarramundiや、お馴染みのKangaroo filletなど、豪州らしい料理も食べることが出来ます。
運賃には、3泊4日全行程の食事とwineなどの飲料が含まれています。
お腹いっぱいになる朝食、2種類または3種類から選べる昼食、3種類から選べる豪華な夕食、食後には3種類から選べるdessertがつきます。
昼食と夕食は、必ず肉と魚のどちらかを選ぶことが出来ます。
また、この列車の予約時に注文しておけば、Vegetarianや子供向けに専用の食事も用意してもらえます。

移り変わっていく雄大な風景を車窓からのんびりと眺め、昼間からwineと美味しい料理をいただき、まさに至福のひと時です。
狭く慌ただしい飛行機の旅とは比較にならないほど優雅な旅だと思います。

走り続けると、自然の色彩も濃い緑から淡い緑へと移り変わり、しだいに木々の背丈が低くなり、緑も少なくなっていきます。乾いた大地が広がります。

小さな子どもが飽きないように、お絵かきと絵具なども用意され、細かい配慮が行き届いています。

しばらくすると、線路の脇に大きなpipelineが並行して設置されていることに気がつきました。

このpipelineは、なんとPerthから約550kmも離れた金鉱山のある町Kalgoorlie-Boulderまで水道水を送る送水管なのです。
Kalgoorlie-Boulderは砂漠気候にあり、降水量が極めて少なく、取水できる河川や地下水も乏しいことから、生活用水の確保が困難な場所です。
西Australia州政府は、19世紀末にGold rushにより爆発的に増えた荒野の町の人口を支えるため、水が豊富なPerthからKalgoorlie-Boulderまで水を送るという壮大なGold Fields給水計画を立てました。
そこで、Perthの水資源開発に功のあったIreland出身の水道技師、Charles Yelverton O’Connorに白羽の矢が立ち、1896年から送水管敷設工事が始まり1903年に完成しました。しかし、完成後にpipelineから水が出ず、その水道技師は失意のあまり自殺してしまったそうです。ところが、彼の死後から数週間の後、ようやく水が出てきました。500km以上もの長いpipelineを水が流れるのには、それだけの時間がかかったのでした。
このpipelineは現在でも使われており、鉱山や周辺地域に住むなど10万人以上の人々に水を供給して生活を支えています。

展望車のOutback Explorer Loungeでは、飲み物の他に果物も数種類用意されていて、自由に食べることが出来ます。

通過する駅では、貨物列車を見かけます。
穀物や鉱物などを運搬する、Indian Pacificに劣らぬ長大編成の貨物列車が停車していました。

穀物を貨物列車に積み込む巨大な施設もありました。

長時間の乗車に飽きてきたので、列車内を見て回ることにしました。
Gold Serviceの車両しか見て回れませんが、車両によって塗装色が異なっています。

車掌室も見ることが出来ました。
Singleの個室は真ん中の通路を挟んで両側に配置されていました。

次第に日が傾き、木々の湖沼の向こうに日が沈みました。

夕食の時間になりました。

食堂車に収容できる人数に限りがあるため、食事は二交代制となっており、乗車時に希望を聞かれます。我が家は幼い長女を早く寝かしつける必要があるため、早番にしてもらいました。
夕食は1時間半から2時間くらいかけてゆっくりいただくことが出来ます。

色とりどりの食材がきれいに飾り付けられ、見た目も美味しそうな料理が並びます。

僕らはMain料理にそれぞれ好みの、牛、鶏、魚を選びます。

食後のdessertは、豪州の伝統的なお菓子であるLamingtonをいただきました。

食後、寝台で仮眠を取ります。夜中に到着予定の最初の停車地、Kalgoorlie (Golden Outback)で開催される、Off Train Excursionに参加するためです。

Kalgoorlie (Golden Outback)
Off Train Excursion

西Australia州のGold Rush Town、Kalgoorlie-Boulderという町は、西Australia州のGoldfields-Esperance地域という内陸部に位置し、19世紀末にGold rushにより金鉱の町として繁栄しましたが、現在の人口は約3万人です。
今でも金が採掘されており、世界最大の露天掘り鉱山、Super Pitがあります。
Indian Pacificの乗客は、このSuper Pitに案内されます。

列車は深夜に駅に到着し、乗客は防寒着を羽織って用意されたbusに乗り込みます。子供たちは眠い目をこすりながら、無理やり連れて行かれる感じでした。
最初に向かったのは、KCGM Super Pit Lookoutでした。

ここは、世界最大規模の金の露天掘り現場を見下ろす展望台です。
車から降りると、とても冷え込んでおり、震えるような寒さです。
乾燥帯で砂漠気候のため、昼間はとても熱く夜間はとても寒いという気温の日較差が大きい場所です。
東京あたりの真冬の防寒着がないと辛いくらいです。

真っ暗闇の大地にとても深い穴が抉られており、豆粒のように見える掘削機械が深夜も作業を行っています。

世界最大の露天掘り鉱山、Super Pit

この採掘現場はあまりにも広く、夜間で光が足りないため、いまいち大きさを把握しかねます。写真では迫力を伝えることはできません。
展望台の脇に展示されている重機のbucketの大きさを見ると、その巨大さが掴めてきます。

重機はKomatsu製で日本の製品であることが誇らしくなります。

展望台の後は、Museum of the Goldfieldsという金にまつわる博物館を訪れ、金の発見と初期の金の採掘を紹介する寸劇などを見せられます。

施設の外には、使用を終えた巨大な重機が展示されています。

身長170cmの長男の背丈と比べると、いかに大きな機械か分かります。

参考までに、Prospector Trainという定期列車が、East Perth TerminalとKalgoorlie間を週に往復18便、約7時間で結んでいます。

豪州大陸横断鉄道の旅 前書き

豪州大陸横断鉄道の旅 2日目

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